令和9年(2027年)4月から2年間、飲食料品の消費税率を8%から1%に下げる方針を、政府が閣議決定しました(法案は未成立)。飲食店では、店内飲食の売上は10%のまま、食材の仕入れだけが1%になるため、原則課税(一般課税)より簡易課税のほうが有利になるお店が増える可能性があります。

現時点(2026年9月23日)で決まっているのは、政府の方針と制度の設計までです。政府は令和8年9月15日に、引下げの具体的な内容を定めた「大綱」を閣議決定し、国税庁も事業者向けの解説資料を公表しました。一方で、法律はまだ成立していません。国税庁の資料も、法案が国会で可決・成立した場合の内容であると明記しています。外食事業者への支援策の中身も、まだ決まっていません。報道によれば、政府は10月5日に臨時国会を召集する方針で、与党は関連法案をこの国会で成立させることを確認しています。

飲食料品の消費税率「1%」は、何が・いつから変わるのですか?

対象は、すべての商品ではなく飲食料品だけです。いま軽減税率8%が適用されている飲食料品(酒類を除く食品)の税率が、令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間、1%(国0.78%・地方0.22%)に下がります。週2回以上発行される新聞の定期購読は8%のまま、それ以外の商品・サービスは10%のままです。0%でなく1%とした理由は、1%であれば0%にするよりも事業者のシステム改修の期間を短くでき、令和9年4月から実施できるためと説明されています(令和8年7月30日の首相会見)。

飲食店に関係する主な取引は、次のようになります。店内飲食か持ち帰りかは、いまと同じく、提供する時点で判定します。

飲食店の主な取引現在引下げ期間中(予定)
店内飲食の売上10%10%(変わらない)
持ち帰り(テイクアウト)・出前の売上8%1%
食材・ソフトドリンクの仕入れ8%1%
酒類の仕入れ、店舗の家賃、水道光熱費、設備など10%10%

店内飲食と持ち帰りの税率差は、いまの2%から9%に広がります。店内と持ち帰りで同じ税込価格にしているお店は、価格やメニュー表示の見直しも検討することになります。持ち帰りの価格表示には、値札などの差し替えが間に合わない事情がある場合に限り、実際の支払額と誤認させない掲示などを条件に、税率が変わる前の2か月(令和9年2月1日〜3月31日)は1%で計算した税込価格を、変わった後の2か月(令和9年4月1日〜5月31日)は8%で計算した税込価格を表示できる特例が予定されています(令和11年に8%へ戻るときも同じ仕組みです)。

原則課税の事業者は、納める消費税がどう変わりますか?

原則課税(一般課税・本則課税)とは、売上で預かった消費税(売上税額)から、仕入れや経費で支払った消費税(仕入税額)を差し引いて納める方法です。簡易課税の届出をしておらず、2割特例・3割特例(インボイス登録を機に課税事業者になった小規模事業者向けの軽減措置)も使わない場合は、この方法になります。

飲食料品を売る小売店などは、売上税額が大きく減るため、納税額が減ったり還付になったりします。飲食店はその逆です。店内飲食の売上税額は10%のまま変わらず、差し引ける食材の仕入税額だけが8%から1%に減るので、納める消費税は増えます

ただし、それだけで「損をする」わけではありません。仕入先が税率の下がった分だけ値下げすれば食材の支払いが減り、「納税が増える分」と「支払いが減る分」がほぼ打ち消し合います。反対に、仕入先が税込価格を据え置いた場合は、納税が増えた分だけ負担が増えます。

気をつけたいのは資金繰りです。仕入れの節約は日々少しずつ積み重なる一方、増えた納税は申告時にまとめてやってきます。中間申告(年の途中の前払い)は原則として前の課税期間(個人は前年、法人は前事業年度)の税額をもとに計算するため、引下げ期間中は中間納付が少なめになり、その分、確定申告時の納付が膨らみます。税率が8%に戻った後は逆に中間納付が過大になりやすく、こうした場合に、仮決算によって中間申告の税額を計算し直せる特例が予定されています。

簡易課税や免税事業者の場合はどうなりますか?

簡易課税とは、売上税額に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けた額を仕入税額とみなして計算する方法です。基準期間(個人は前々年、法人は原則として前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下の事業者が、届出をして選びます。飲食店業は第4種(みなし仕入率60%)なので、納める消費税は売上税額の40%です。

実際の仕入れの税率は計算に使わないため、食材が1%になっても、店内飲食の売上にかかる納税額は変わりません。仕入先が値下げすれば、その分はそのまま手元に残ります。また、持ち帰り・出前など1%の売上については、業種にかかわらず売上税額と同じ額を差し引ける特例が設けられる予定で、この部分の納税は実質ゼロになります。2割特例・3割特例を使う場合も同じ扱いです。

ただし、簡易課税では還付を受けられません。持ち帰り・出前など飲食料品の販売も行う簡易課税の事業者は、令和9年4月1日を含む課税期間中に届け出れば、その期間から原則課税に切り替えられ、2年間の継続要件も外れる特例が予定されています。

免税事業者は申告・納税がないため、仕入れが安くなれば、その分がそのまま利益の改善につながります。持ち帰りが中心で還付を受けたい場合は、令和9年4月1日を含む課税期間中に届け出れば、その期間から課税事業者になれる特例も予定されています。

なぜ店内飲食が中心の飲食店では、簡易課税のほうが有利になりやすいのですか?

店内飲食が中心の飲食店は、「売上(店内飲食)は10%のまま、食材の仕入れだけが1%に下がる」という、飲食料品の小売店などとは逆向きの影響を受けるからです。納税が増える原則課税と、納税が変わらない簡易課税の差が、簡易課税に有利な方向へ広がります。

2つのタイプのお店A・Bで、具体的に比べてみます(仮の数字による当事務所の試算です)。まず、店内飲食が中心のお店Aです。

店内飲食中心のお店(試算例A)の、1年間に納める消費税 115万円 185万円 70万円増 120万円 120万円 変わらない 現在(食材8%) 1%になった後 現在(食材8%) 1%になった後 原則課税(一般課税) 簡易課税(飲食店業=第4種) 食材の仕入税額が減る分、納税が増える 売上税額×40%で計算するため、変わらない ※税抜・年額。店内飲食の売上3,000万円、食材・ソフトドリンクの仕入れ1,000万円、 その他の課税経費1,050万円とし、1年間同じ税率が続くものとした当事務所の試算です。 ※仕入先が値下げすれば、原則課税の納税増は食材の支払いの減少(約70万円)とほぼ相殺されます。
お店のタイプ計算方法現在(食材8%)1%になった後
A 店内飲食中心原則課税115万円185万円(70万円増)
簡易課税(第4種・60%)120万円120万円(変わらない)
B 持ち帰り・弁当専門(飲食設備なし)原則課税90万円50万円の還付
簡易課税(第3種・70%)72万円0円(1%売上の特例)

※太字は有利なほう(納税額が少ない、または還付を受けられるほう)。税抜・年額。A:店内飲食の売上3,000万円、食材・ソフトドリンクの仕入れ1,000万円、その他の課税経費(酒類・家賃・水道光熱費など)1,050万円。B:持ち帰りの売上3,000万円、食材の仕入れ1,000万円、その他の課税経費700万円。Bの簡易課税は、持ち帰り販売を製造小売業として第3種(みなし仕入率70%)で計算しています。1年間同じ税率が続くものとし、中間申告・端数・インボイス発行事業者以外からの仕入れは考慮していません。

店内飲食中心のお店Aでは、いまは原則課税のほうが5万円少ないのに対し、1%になった後は簡易課税のほうが65万円少なくなり、有利・不利が逆転します。原則課税の70万円増は食材の仕入税額が減るためで、仕入先が値下げすれば食材の支払い(税込)も約70万円減り、実質的な負担はほぼ変わりません。簡易課税なら、この値下げ分がそのまま手元に残ります。これまで原則課税で申告してきたお店でも、簡易課税を検討する必要が出てくるかもしれません。

一方、持ち帰り・弁当専門のお店Bでは、原則課税なら仕入税額が売上税額を上回って還付を受けられるため、原則課税が有利になります。「飲食店なら簡易課税が有利」とは限りません。店内飲食と持ち帰りの割合や、経費の中身によって結果は変わります。

原則課税から簡易課税への切り替えを考えるとき、何に注意すればよいですか?

  • 届出の期限:簡易課税は、適用したい課税期間が始まる前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。個人事業者と12月決算法人が令和9年1月に始まる期から適用するなら令和8年12月31日、3月決算法人が令和9年4月に始まる期から適用するなら令和9年3月31日が期限です。大綱と国税庁Q&Aには、簡易課税を新たに選ぶための期限の特例は示されていません。法案の成立時期によっては、成立を待たずに判断する必要が出てきます。
  • 2割特例・3割特例を使っていた場合:2割特例・3割特例を使った課税期間の翌課税期間から簡易課税に切り替えるときは、その翌課税期間の確定申告期限までに届け出ればよい特例があります(たとえば令和8年分まで2割特例を使った個人事業者は、令和9年分の確定申告期限まで)。
  • 売上規模:基準期間の課税売上高が5,000万円を超える期は、簡易課税を使えません。
  • 2年間の継続:簡易課税は原則として2年間やめられず、その間は還付も受けられません。個人・12月決算法人は、令和9年の1〜3月が8%のまま、令和11年は4月から8%に戻る点も踏まえて試算します。
  • 設備投資:改装や厨房設備の入れ替えなど大きな投資をする年は、原則課税のほうが有利になることがあります。また、原則課税の期間中に税抜1,000万円以上の設備など(高額特定資産)を取得すると、原則として3年間は簡易課税に切り替えられません。
  • テイクアウトの割合:売上に占める持ち帰り・出前の割合が大きい(店内飲食の割合が小さい)ほど、原則課税が有利に傾き、還付になることもあります。今後テイクアウトの比率を高める予定があれば、その見込みも入れて試算します。
  • 3割特例:インボイス登録を機に課税事業者になった個人事業者(基準期間の課税売上高1,000万円以下)は、令和9年分・令和10年分の納税額を売上税額の3割にできる特例があり、簡易課税(第4種は4割)より少なくなることがあります。詳しくは「2割特例がついに終了」をご覧ください。

法案が成立しなかった場合(8%のまま)でも困らないかを含め、両方の場合で試算してから決めることをおすすめします。

今後、飲食店への手当てや、有利・不利を調整する見直しはありますか?

政府の大綱には、外食事業者への支援として、資金繰りの支援、省力化の取組の支援、テイクアウトなどへの業態の多角化の支援、簡易課税・免税の事業者が原則課税に移る際の相談対応や税理士費用などの支援が盛り込まれています。ただし、これらの支援の金額・対象・申請方法は、これからの予算編成の中で具体化される予定で、現時点では決まっていません。このほか、レジの改修やスマートレジへの移行を行う中小企業への支援も大綱に明記されていますが、具体的な内容までは示されていません。

背景には客足への懸念があります。外食企業の業界団体である日本フードサービス協会は、店内飲食(10%)と持ち帰り(1%)の税率差が広がることによる客離れを懸念し、政府に対策を求めています。同協会は、令和元年(2019年)10月に軽減税率が導入され、店内飲食(10%)と持ち帰り(8%)に税率差がついた際、外食業界全体で客数が約5%減ったと説明しています。なお、店内飲食の税率を下げる内容は、大綱には含まれていません。

飲食店業のみなし仕入率(60%)の見直しも、大綱・国税庁Q&A(令和8年9月版)には示されていません。大綱は、持ち帰りなど1%の売上に関する計算の特例を「簡易課税制度において可能な最大限の対応」と位置づけています。令和元年の軽減税率導入時には、税率ごとの区分が難しい中小事業者向けに、その期間中に届け出れば簡易課税を使える特例が設けられた例がありますが、今回、同様の措置が設けられるかは分かりません。国税庁は特設サイトで最新の情報を随時掲載するとしています。

支援策や追加の特例を待ってから判断すると、簡易課税の届出期限に間に合わないおそれがあります。期限のある簡易課税への切り替えは、いまの届出のルールを前提に、税率が1%になる場合とならない場合の両方で早めに試算し、支援策の活用は内容が決まってから検討する、という順番で考えるのが現実的です。

飲食料品の消費税率引下げへの備えは、当事務所にご相談ください

当事務所(堺市北区新金岡)では、飲食店を営む方を含む個人事業主・法人の、消費税の計算方法の選択、届出、申告をサポートしています。「うちのお店は簡易課税と原則課税のどちらが有利になりそうか」「届出はいつまでに出せばよいか」といった試算・ご相談は、お問い合わせフォームから承ります。

※本記事は、令和8年(2026年)9月23日時点の政府の大綱(令和8年9月15日閣議決定)、国税庁の解説資料(法案の成立を前提としたもの)および報道にもとづく一般的な解説です。法案の審議により内容が変わる可能性があります。試算は仮の数字によるもので、実際の有利・不利はお店ごとの売上・経費の内容などによって異なります。

出典