コミックマーケットなどの同人誌即売会やBOOTHで同人誌・グッズを売ったら、税金はかかるのでしょうか。いくらから確定申告が必要なのでしょうか。2019年夏のコミックマーケット(C96)にサークル参加し、同人作家・漫画家・イラストレーターの方向けに税金解説の冊子を頒布しました。この記事はその冊子をもとに、インボイス制度や電子帳簿保存法など、その後の税制改正を織り込んで全面的に改訂したものです。「何をどうしたらいいのか分からない」という方が、これ1本で全体像をつかめるように書いています。
先に、この記事全体で一番大事なことをお伝えします。「売上を管理しておく」「経費の領収書・データを保存しておく」——この2つさえきちんとやっておけば、税金の申告は後からでも必ず何とかなります。分からないからと放置することだけは避けてください。
同人活動の利益に税金はかかりますか?いくらから申告が必要ですか?
即売会にサークル参加している方全員に申告義務があるわけではありません。申告が必要になるのは、1月1日〜12月31日の1年間の同人活動で「利益」が出た方です。利益とは、同人誌やグッズを売って得たお金(売上)から、経費(印刷代、サークル参加費、交通費など)を差し引いた金額のことです。
目安となるラインは、働き方によって変わります。
| あなたの状況 | 申告が必要になる目安 |
|---|---|
| 会社員・アルバイトなど給与をもらっていて、年末調整を受けている | 同人活動などの給与以外の所得(利益)が年20万円を超えると所得税の確定申告が必要 |
| 専業(給与収入がない) | 同人活動の所得が基礎控除額(下記※)以下なら所得税の申告は原則不要 |
※基礎控除は令和7年分から58万円に引き上げられ、合計所得金額132万円以下の方は95万円です(この95万円は令和9年分以降も続きます。それより所得が多い層への上乗せは令和7・8年分だけの時限措置です)。
ここで、昔からよく誤解されている「20万円ルール」の正しい中身を押さえてください。利益20万円以下なら申告不要——と言われるのは所得税(税務署への申告)だけの話です。税金にはもう一つ、市区町村が課す住民税があり、こちらには20万円ルールがありません。利益が20万円以下でも、お住まいの市区町村への住民税の申告は必要です。また専業の方の場合も、住民税が非課税になるラインは所得税より低く、所得45万円以下(お住まいの地域により38万円・41.5万円のところもあります)が目安です。「所得税は申告不要でも住民税は別」と覚えてください。なお、医療費控除やふるさと納税などで確定申告をする場合には、利益が20万円以下でも同人活動の所得をあわせて申告する必要があります(20万円ルールは、確定申告をしないで済ませる場合の特例です)。
なお、利益が出ていないから何もしなくていい、というのも危険です。あとから税務署に確認されたとき「本当に利益が出ていなかった」ことを示せるように、売上のメモと領収書の保存だけは必ずしておきましょう。
同人活動の所得は「事業所得」と「雑所得」のどちらですか?
確定申告をする場合、同人活動の利益は「事業所得」か「雑所得」のどちらかで申告します。この区分は、青色申告の特典(後述)が使えるかどうかが変わる大事な分かれ目です。
この区分については、令和4年に国税庁の取扱い(所得税基本通達)が整理されました。ポイントは帳簿をつけて保存しているかどうかです。
- 帳簿書類の保存があれば、収入金額にかかわらず、おおむね事業所得として扱われます(ただし収入がごく少額の状態が続く場合や、赤字続きで改善の取組みもない場合は個別に判断されます)。
- 帳簿の保存がなければ、原則として雑所得です。収入300万円以下なら帳簿なしで事業所得と認められる余地はほぼありません。
本業として生計を立てている方はもちろん、副業でも会計ソフトで帳簿をつけることが、事業所得として申告するための事実上の入場券になっています。副業の方で売上がまだ小さいうちは雑所得で申告し、活動が軌道に乗ってきたら開業届+青色申告に進む、という流れが現実的です。
売上はどうやって集計すればいいですか?
即売会(現金売上)の集計
即売会の売上は自分で記録する必要があります。理想は「何冊売れたか」を数えることですが、忙しい売り子の現場では難しいこともあります。その場合は簡便的に、
(持って行った部数 − 残った部数)× 1冊あたりの売値 = その日の売上
で計算できます。「終了時の手元のお金 − 持って行ったお釣り」という方法もありますが、これだとどの本が何冊売れたか分からなくなるので、部数ベースの記録をおすすめします。イベントごとにメモを残しておきましょう。
委託販売・ダウンロード販売・支援サイト
BOOTH・とらのあな・メロンブックスなどの委託販売や、DLsite等のダウンロード販売、pixivFANBOX・Fantiaなどの支援サイト、Skebなどのリクエストサービスの収入も、すべて売上に計上します。各サービスの管理画面で売上明細(振込明細ではなく、手数料が差し引かれる前の明細)を確認・保存してください。売上は手数料を引かれる前の総額で計上し、手数料は経費に計上するのが原則です。
ここで注意が1つあります。これらの明細を電子データでもらった場合、電子帳簿保存法により、そのデータは電子のまま保存することが義務になっています(令和6年から完全義務化)。プリントアウトして紙だけ残す運用は認められないので、PDFやCSVをダウンロードしてフォルダに保存しておきましょう。
出版社からの原稿料には源泉徴収があります
商業誌の原稿料、企業から依頼されたイラストの報酬、単行本の印税などは、支払う側(出版社等)があらかじめ税金を差し引いて支払います。これが源泉徴収で、税率は10.21%(1回の支払いが100万円を超える部分は20.42%)です。
「引かれて終わり」ではありません。源泉徴収はあくまで前払いなので、確定申告で1年分の税金を計算し直すと、払いすぎた分が還付される(戻ってくる)ことがよくあります。経費をきちんと集計して申告すれば、その分だけ戻る金額も増えます。原稿料をもらっている方こそ、確定申告で損をしないでください。
一方、即売会での直接販売やBOOTH等での販売には源泉徴収はありません。これらは「報酬」ではなく「商品の売上」だからです。同じ収入でも性質が違うことを覚えておくと、資料の整理がしやすくなります。
経費になるのはどんな支出ですか?
判断基準はシンプルで、「同人誌等の販売・制作に必要な支出か?(売上に結びついているか?)」を自問自答することです。同人活動でよく出てくる経費を科目ごとにまとめます。
| 科目 | 同人活動での具体例 |
|---|---|
| 仕入(印刷代等) | 印刷所に支払った印刷代・グッズの製作費 ※在庫の注意あり(下記) |
| 荷造運賃 | 通販の発送費、イベントへの搬入・搬出の宅配便代 |
| 旅費交通費 | 即売会会場までの電車代・ガソリン代・高速代・遠征の宿泊費。取材旅行も、同人活動に必要と第三者が納得できる内容なら計上可 |
| 通信費 | プロバイダー代・スマホ通信費(事業で使う割合分)、郵便代 |
| 水道光熱費 | 作業に使う電気代の一部(事業で使う割合分) |
| 地代家賃 | 賃貸の一部を作業スペースにしている場合、面積などの合理的な割合で家賃の一部 |
| 消耗品費 | 文具・画材・コピック、10万円未満のペンタブや機材、デッサン用のフィギュアなど |
| 新聞図書費 | 資料として購入した漫画・イラスト集・技法書・雑誌 |
| 支払手数料 | BOOTH・とらのあな等の販売手数料、振込手数料 |
| 接待交際費 | 同人活動に関係のある人との打合せ飲食代・差し入れ・贈答品 |
| 修繕費 | パソコン・液タブ・スマホの修理代 |
| 損害保険料 | 事業で使う車の保険など(使用割合分)。個人の生命保険は経費ではなく所得控除(経費とは別枠で利益から差し引けるもの) |
| 減価償却費 | 10万円以上のパソコン・液タブ等は耐用年数(パソコンは4年)で分割して経費化。青色申告なら特例あり(後述) |
| 雑費 | どの科目にも入らないもの。多用すると税務署から不透明に見えるため最小限に |
ソフトウェアやサブスクリプション(CLIP STUDIO PAINT、Adobe製品、素材集など)も、制作に使うものは経費になります。自宅の家賃や通信費のように仕事とプライベートが混ざる支出は、全額ではなく事業で使っている割合(家事按分)で計上します。
領収書は必ず保存する癖をつけてください。電車賃や自動販売機など領収書が出ないものは、市販の出金伝票に日付・金額・内容を記録すれば代用できます(ただし出金伝票の多用は禁物です)。
印刷代は全額経費になりますか?——在庫(棚卸資産)の注意
ここが同人活動の経理で一番間違えやすいところです。印刷代のうち、年末に売れ残った在庫に対応する分は、その年の経費にできません。
たとえば10万円で1,000部印刷し、年内に800部売れたなら、経費になるのは800部分の8万円です。在庫200部分の2万円は、その200部が売れた年の経費になります。年末には在庫の部数を数えて記録する(棚卸し)習慣をつけてください。売上と経費を対応させるこの考え方は、会計で「費用収益対応の原則」と呼ばれます。
開業届と青色申告——65万円控除は使ったほうがいい?
同人活動が事業と呼べる規模になってきたら、税務署に「個人事業の開業届出書」を提出します。そして開業届とセットで提出を検討したいのが「所得税の青色申告承認申請書」です(提出期限:事業開始から2か月以内、またはその年の3月15日のいずれか遅い日)。青色申告にすると、主に次の特典があります。
- 青色申告特別控除 … 利益から最大65万円を差し引けます。65万円控除を受けるには、複式簿記での記帳、貸借対照表(財産の一覧表)等の添付、e-Taxでの期限内申告(または優良な電子帳簿の保存)が必要です。紙で申告すると55万円に、申告が期限に遅れると10万円に下がります。なお令和9年分からは制度が再編され、最大75万円に拡大されます(詳しくは青色申告特別控除が最大75万円に|新要件の解説をご覧ください)。
- 少額減価償却資産の特例 … 通常は10万円以上のパソコン等は数年に分けて経費化しますが、青色申告なら取得価額30万円未満(令和8年4月1日以後の取得分は40万円未満)のものを、買った年に全額経費にできます(年間合計300万円まで・令和11年3月31日までの取得分)。ハイスペックPCや液晶タブレットがまるごと対象になる、クリエイターに嬉しい特例です。
- 赤字の繰越し … 損失を翌年以後3年間繰り越して、将来の利益と相殺できます。
「複式簿記なんて無理」と思われるかもしれませんが、「マネーフォワード クラウド確定申告」や「やよいの青色申告」などの会計ソフトを使えば、帳簿は自動的に出来上がります。年1万円程度の利用料はそれ自体が経費になりますし、65万円控除で所得税・住民税あわせて10万円前後の税金が浮くことも多く(所得が多いほど効果は大きくなります)、十分に元が取れます。売上・経費の集計や申告の時間を創作活動に充てたい方は、税理士に任せるのも選択肢です。
消費税とインボイスはどうすればいいですか?
消費税の申告が必要になるのは、原則として2年前(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えた場合です。ここまで来るサークルは多くありませんが、大手サークルや商業と並行している方は無縁ではありません。
そして2023年10月から始まったのがインボイス制度です。同人作家にとっての結論を先に言うと——
- 即売会やBOOTHで一般の読者に売っているだけなら、インボイス登録は基本的に不要です。買い手は消費者なので、インボイス(適格請求書)を求められる場面がないからです。売上1,000万円以下なら免税事業者のままで問題ありません。
- 出版社や企業と取引がある方(商業原稿・企業案件)は、取引先から登録を求められることがあります。登録すると売上1,000万円以下でも消費税の申告・納税が必要になります。
免税事業者からインボイス登録した方向けの負担軽減措置が「2割特例」(売上にかかる消費税の2割だけ納めればよいというもの)ですが、この特例は令和8年分(2026年分)の申告で終了します。その受け皿として、令和8年度税制改正で「3割特例」(個人事業者の令和9年分・令和10年分、納税額は売上税額の3割)が設けられました。その後は「簡易課税制度」への移行が現実的で、届出期限にも特例が用意されています。このあたりは毎年のように変わっている論点なので、該当しそうな方はインボイス制度の実務(2割特例の期限と3割特例)もあわせてご覧ください。
原稿料・印税が急に増えた年は「平均課税」を検討
連載が決まった、単行本が出た、作品がバズって印税が跳ねた——そんな年にぜひ知っておいてほしいのが平均課税制度です。原稿料や印税のような変動の激しい収入について、急増した年の税率の跳ね上がりを緩和してくれる制度で、数十万円単位で税額が変わることも珍しくありません。税理士でも見落とすことがある制度です。詳しくは漫画家・作家の平均課税と過去分の更正の請求で解説しています(過去の申告分をさかのぼって取り戻せる場合もあります)。
国民健康保険が高い——文芸美術国民健康保険という選択肢
専業の方の悩みどころが国民健康保険料です。利益が増えると保険料も上がっていきますが、漫画家・イラストレーター等には文芸美術国民健康保険組合(文美国保)という選択肢があります。最大の特徴は保険料が所得にかかわらず定額なことです(令和8年度は組合員1人あたり月額26,000円。40〜64歳は介護保険料が加わります)。所得が増えて市区町村の国保料が文美国保の保険料を大きく超えるようになったら、切り替えを検討する価値があります。
加入には、日本漫画家協会など組合に加盟する団体の会員であることが必要です。逆に所得が少ない方は市区町村の国保のほうが安いことも多いので、「稼げるようになってきたら検討」と覚えておいてください。
税務調査は来ますか?怖いものですか?
正しく申告していれば、税務調査は恐れるものではありません。「答え合わせに来てくれる」くらいに構えて大丈夫です。大事なのは、売上・経費の根拠資料をきちんと保存しておくことです。たとえば飲食代なら誰と行ったのか、同人活動に関係があるのか、と聞かれたときに答えられるようにしておくことです。仮に間違いが見つかっても、資料が揃っていれば、不足分の税金と利息的な加算を少し払う程度で済むのが通常です。
怖いのは無申告と脱税です。売上を意図的に隠す、経費を水増しする——といった行為には重加算税という重いペナルティがあり、悪質な場合は刑事罰の対象にもなります。そして税務調査は数年分まとめて来るのが通例です。印刷所への発注部数、委託サイトの売上データ、SNSでの頒布報告など、同人活動の売上は外部資料から把握しやすいことも知っておいてください。「現金商売だからバレない」は通用しません。多少間違っていてもいいので、まず申告することが何よりの防御です。
そのほかの節税・お金の制度
- ふるさと納税 … 実質負担2,000円で返礼品を受け取れる制度です。確定申告をする方はワンストップ特例(確定申告なしで控除が受けられる簡易手続)が使えないので、申告書に寄附金控除を忘れずに記載してください。
- 小規模企業共済 … 個人事業主が入れる「自分の退職金」の積立てで、掛金が全額所得控除になります。詳しくは小規模企業共済と経営セーフティ共済の解説をどうぞ。
- iDeCo … こちらも掛金が全額所得控除になります。原則60歳まで引き出せない点だけご注意ください。
- 法人化 … 利益が数百万円規模で安定してきたら検討の価値があります。個人より法人の税率が有利になる水準があるためです。ただし、かつて言われた「設立から2年は消費税がかからない」というメリットは、インボイス登録が必要な取引をしている場合には額面どおりには働きません。利益が少ないうちの法人化はかえって負担増になることもあるため、タイミングは税理士にご相談ください。
まとめ——放置だけはしないでください
長くなりましたが、やるべきことは最初にお伝えした2つだけです。
- 売上を管理しておく(即売会はイベントごとにメモ、委託・DL販売は明細データを保存)
- 経費の領収書・データを保存しておく(電子でもらったものは電子のまま)
この2つができていれば、申告作業は後からでも必ず整理できます。逆に、分からないからと放置して無申告のまま数年経つのが一番危険です。「知らなかった」は通用しませんが、申告さえしていれば、間違いがあっても正しい税額との差額と少しの加算で済むことがほとんどです。
同人作家・クリエイターの確定申告は、当事務所にご相談ください
当事務所は、漫画家・イラストレーター・YouTuber・VTuberなど、クリエイターの活動を理解しています。「言葉の意味が伝わらないのでは」といった心配はせず、お気軽にご相談ください。単発の確定申告の料金は確定申告(単発)税理士報酬シミュレーターで概算をすぐ確認できます。全国対応(Web面談・チャット)で、ご相談はお問い合わせフォームから承っています。
※本記事は2019年8月11日にコミックマーケット96で頒布した冊子を元に、令和8年(2026年)8月時点の税制で全面改訂した一般的な解説です。個々の状況により取扱いが異なる場合がありますので、具体的な判断は税務署または当事務所までご相談ください。